この記事を読むと、まるで生産緑地への相続税が高いから、農家は農地を手放し、生産緑地が減少するように受け止められます。
朝日新聞の論点は、@生産緑地が減少→A相続が契機→B相続税が高額 となっています。確かに生産緑地は減少しています。また、減少の契機は相続です。農家の相続税が高額なのも事実です。@もAもBもそれぞれは事実ですが、つなげてしまうと誤解を生じさせてしまうと思います。まるで、畑(生産緑地)の相続税が払えなくて農地を売却するという印象を与えてしまうからです。
ここで、ハッキリとさせておきたいのは、農家の相続税の内、生産緑地にかかる分はほとんどゼロであるということです。生産緑地の相続税は、相続した人が営農している限り猶予されるのです。では、なぜ農家の相続税は高額になるのでしょうか?まず第一に自宅部分があります。一般的に居住している住宅を相続しても一定額まで相続税が免除されますが、農家は200坪から300坪もの大きな屋敷に住んでおります。庶民の住宅の30坪〜40坪と比較すればその大きさがわかると思います。この大きすぎる分に相続税がかかります。さらに、駐車場、アパートを所有し、場合によってはガソリンスタンド、コンビニ、ファミレスに用地を貸していたりします。この部分に相続税がドバッとかかるのです。これらは農業とは一切無関係の資産です。不動産経営に関する相続税であって、農業、農地(生産緑地)に対する相続税ではありません。つまり、駐車場やアパートを維持するために農地(生産緑地)を売っているのです。そして売られた農地がアパートや駐車場になるというわけです。
記事では「JA(農業協同組合)関係者などによると、減少の理由のほとんどは、高齢者の多い生産者の死亡とその相続で、高額な相続税の支払いのために手放すのだという。結局、緑地にはアパートなどが建つ。JA東京あおば(東京都)の地域振興部の渡辺和嘉部長も「相続の仕組みを何とかしないと、生産緑地も他の農地も減る一方だ」と話す。」 となっていますが、このような補足説明を入れないと大きな誤解を生じさせてしまいます。
正確に記載されていれば、「どうして、アパートなどの不動産事業のために相続税をなんとかしなければならないのか?」という疑問が逆にわいてきます。
「相続という理由があれば、生産緑地を農家は自由に転売できる」という今の制度は、事実上、都市農地を保全するという目的を果たしていないということです。本気で都市農地を保全するならば、土地利用計画などにより生産緑地を転用できない制度に転換すべきと思いますが、いかがでしょうか。
【2008年2月18日 朝日新聞】
都会の畑、相続税払えず売却 減る生産緑地
保存・維持していくことが前提の都市圏に残る農地「生産緑地」が、じわじわと姿を消している。最も面積があった95年度から10年間で、東京ドーム約198個分が減った。緑地を守ってきた人の死亡で緑地が相続対象になると、相続人が相続税の支払いのために指定を解除し、業者に売却するケースが増えているためだという。自治体が買い取るのが原則だが、面積が中途半端で公共用地としての使用には適さない土地が多く、ほとんど買い取られていない。「都市の緑を減らさないための新たな仕組みが必要だ」という声が農家や識者からあがっている。
コマツナにネギ。東京都練馬区の野菜農家、白石好孝さん(53)が耕す1.3ヘクタールの生産緑地に青々とした野菜が並ぶ。 91年の生産緑地法の大幅改正を機に、92年4月に指定を受けた。改正で営農や利用の条件が厳しくなって自由に売買できなくなったが、「本気で農業をやるには欠かせない農地」だったからだ。さらに92年から始まった市街化区域農地への宅地並み課税の対象外となる優遇措置も魅力だった。白石さんは「生産緑地にならないと税金が高すぎて、農業は成り立たなかった」と振り返る。
江戸時代から続く農家に生まれ、24歳で就農した。少量多品種の栽培手法で、直売所や学校、スーパーに出荷。体験農園も開くなど積極経営を続ける白石さんだが、最近、生産緑地の宅地化が相次いでいることに危機感を抱く。
「緑の景観や土と触れ合える役割が高まっているのだから、維持していく新しい仕組みが必要だ」
農家にとって、生産緑地の最大の利点は税金だ。地価の高い3大都市圏では、農地への課税が宅地並みになると、固定資産税は生産緑地の数十倍から数百倍にも膨らむ。
宅地並み課税が始まった92年は、バブル期の地価高騰も反映。92年度の課税標準額から、東京23区内の100平方メートルあたりの固定資産税を標準税率(1.4%)で算出すると、宅地は14万3820.6円。緑地指定を受けていない市街化区域農地は5万684.2円。
一方、生産緑地はわずか287円。平均値のため、場所によっての金額差はもっと大きかったという。意欲的な都市農家ほど、積極的に生産緑地の指定を受けた。
税金面で優遇されていても、生産緑地は減っている。その面積は、95年度の約1万5500ヘクタールがピークで、00年度までの5年間に約260ヘクタール、その後の5年間では一気に660ヘクタール余りも減少した。
JA(農業協同組合)関係者などによると、減少の理由のほとんどは、高齢者の多い生産者の死亡とその相続で、高額な相続税の支払いのために手放すのだという。結局、緑地にはアパートなどが建つ。JA東京あおば(東京都)の地域振興部の渡辺和嘉部長も「相続の仕組みを何とかしないと、生産緑地も他の農地も減る一方だ」と話す。
農地として使われなくなった生産緑地は、自治体による買い取りが原則だが、この仕組みは機能していない。
練馬区には、生産緑地の所有者から03年度〜07年度の5年間で108件の買い取り要請があったが、区の購入はゼロ。92年度までさかのぼっても区による買い取りは体育館用地の1件のみだという。区の担当者は「面積が狭くて、公共施設が建てられないケースが多い。財産的にも、高額な土地を無目的には買えないからだ」と話す。
この5年間に337件の買い取り申請があった名古屋市では、購入は1件のみ。同じく70件の申請があった大阪市では、買い取りゼロだった。
〈後藤光蔵・武蔵大教授(農業経済学)の話〉 緑地の減少が続く都市部では、生産緑地そのものが貴重な緑地の役割を担っている。都市機能と農業の共生を考えれば、生産緑地の保全は不可欠だ。いまは農家世帯での農業継承が前提だが、貴重な生産緑地を先々も維持していくには、NPOや意欲的な農家に継承できる仕組みを考えていかなければならない。
〈生産緑地〉 都市部に残る緑地を守る狙いで1974年に制定された生産緑地法に基づき、市町村から指定を受けた農地。1区画500平方メートル以上のまとまった土地であることや30年間の営農などが条件で、指定されると自由な売買やアパート建築などの農業目的以外での使用が出来なくなる。一方で、3大都市圏にある特定市(210市、東京23区は1市とみなす)の市街化区域農地への宅地並み課税の対象とならない。生産緑地法の規定によると、農業従事者の死亡などで農業が続けられなくなった場合には、まず自治体に申し出て時価で買い取ってもらうのが原則。買い取られなければ、目的外使用の制限が解除される。
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